当院における抗菌薬の使い方 耳鼻咽喉科感染症学会
2019.09.10
先週、三重県津市で開催された耳鼻咽喉科感染症学会に参加してきました。
鼻副鼻腔炎の群、院内感染対策の群に参加した後、”AMR(薬剤耐性)対策と抗菌薬(抗生物質)の適正使用”というセミナーに参加しました。
このセミナーで強調されていたのは、適正使用とは使用しないということではないということです。「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適正な量と期間」使用することが、AMRの根幹であるということです。
いくら熱が高くても、ウィルス性の風邪に抗菌薬を使う必要はありません。しかし風邪がこじれて細菌性の中耳炎や副鼻腔炎を起こした場合は、抗菌薬が必要になることがあります。その見極めが大切です。
耳鼻咽喉科は、症状だけでなく、鼻内所見、鼓膜所見、あるいは喉の所見を直接見て判断しますので、ウイルス性か細菌性かの診断がより正確にできます。必要であれば内視鏡で観察することもしますし、当院では副鼻腔炎の診断に超音波検査も活用しています。
「適切な薬剤」とは、言い換えればその炎症の起炎菌に有効な抗菌薬ということになります。
中耳炎や副鼻腔炎ではペニシリン系のAMPCが第一選択とされます。これらの病気の起炎菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌が多く、AMPCは肺炎球菌には第一選択になるのです。一方、セフェム系と呼ばれる抗菌薬は肺炎球菌には不十分な効果しかない上に、かえって耐性肺炎球菌を増やす可能性があって、これを使うことはできるだけ避けるように言われてきました。
最近ではセフェム系が使われることが減り、肺炎球菌ワクチンも普及してきて、20年ほど前にピークだった耐性肺炎球菌による中耳炎は激減しました。しかし代わってインフルエンザ菌による中耳炎が問題になってきています。インフルエンザ菌は肺炎球菌と違って、AMPCがあまり効かず、セフジトレン(メイアクト)というセフェム系の薬が必要になることもしばしばあります。
成人の急性副鼻腔炎については、中等症以上ではキノロン系の抗菌薬を使う場合があります。キノロンは他の抗菌薬が無効な時に使われる抗菌薬ですが、成人の急性副鼻腔炎ではAMPCやセフェムが全く無効なことが結構多いのです。
「適正な量と期間」とありますが、抗菌薬は少なすぎても良くありません。効かないしかえって耐性菌を増やします。ですから中耳炎や副鼻腔炎では、常用量より多く抗菌薬を使うこともしばしばあります。小児の中耳炎に効果のあるクラバモックスという薬が使われることがありますが、この薬は通常よりかなり多いAMPCを含む薬です。
以上は中耳炎や副鼻腔炎のガイドラインにも描かれていることであり、当院では以前からガイドラインに準じた抗菌薬の使用を心がけていますが、このセミナーでは機械的な薬の選択ではなく、実際の患者さんに抗菌薬を投与してその効果を評価して抗菌薬変更を判断をすることも重要であるとされていました。
さらに京大形態形成機構学の萩原正敏教授の”アカデミア創薬と医療倫理”と題されたご講演を聴き、また”かぜを診る”と題されたシンポジウムにも参加しました。いずれも興味深い内容でした。
”かぜ”は鼻と喉の炎症なので、耳鼻咽喉科の専門領域です。しかし”かぜは万病の元”と言われるように、様々の病気のきっかけになる可能性があり、耳鼻咽喉科医も他科領域にわたる”かぜ”の合併症に対する知識も必要とされます。